二人のいない街 後編

「不法侵入だぞ」

「!?」

はじかれたように振り向いた先には、僚が涼しい顔をして立っていた。
ミックは言葉がうまく繋げない。

「な……んっ」

「悪かったな。連絡もしなくて」
と、悪びれる様子もなく言った。
その表情から、香も無事なことがわかる。

「……生きてたのか」
ミックには、そんな見ればわかるような確認をするのが精一杯だった。
「俺たちシティーハンターは不死身なんだぜ〜」
僚はポケットから煙草を取り出すと、ミックに火の催促をした。
肺いっぱいになった煙をゆっくり吐きだすと、いきさつをミックに話しだした。

タンカーの大爆発に巻き込まれ、僚さえも香をかばったまま気を失い、漂流していた二人を助けたのは日本の小さな漁船だった。
漁船は中部地方の過疎化の進む離島の漁村に二人を連れて帰り手当てをしてくれた。
僚は両脚を骨折し動けなかったので、しばらく身を潜めたかった。都合のいいことに香は記憶喪失だった。爆発のショックに頭部打撲が追い打ちを掛けたのか、過去の記憶を全て無くしていた。
骨折が治り、良くしてくれた漁師にお礼がてら漁を手伝っていた。
漁船が港に着くと、漁師の妻たちが待っていて、その中で香も笑っていた。
ずっと香を表の世界に返すべきか悩んでいたが、いっそのこと俺も表の世界に行っちゃおっかなーって。あの村ならそれができそうな気がしていた。いずれは自分の船とか持っちゃってさー。
村の花火大会の日、浴衣を着て最前列で打ち上がる大輪と夜の海に反射する花火を間近で見て、香が唐突に言った。
「……これ、隅田川でも荒川でもないよね? ここどこ」
タンカーの爆発と花火がシンクロしたらしい。
アイツの記憶喪失って徐々に記憶が戻るとかでなく、何の前触れもなく急に戻るのなww

「今度は記憶を無くしていた時のことをすっかり忘れちゃってて、新宿に帰りたいって言うから、急いで帰ってきたってわけ」

ミックは頭を掻いた。
「そか、いやー、俺が副業でまたシティーハンターの看板掲げようと思ってたのになぁ。残念残念、死んでくれてればなぁ^^」

お道化て両手を広げるミックを、僚は低く笑い、2本目の煙草に火をつけた。
ミックの顔から笑顔が消える。

「うっそ、ホントは抱きしめてキスしたい」

「……おまぁ、3年たったら趣味変わったのな」

そのとき、屋上のドアを開けて香が顔を出した。

「ミック、僚、コーヒー淹れたよぉ」

ミックは極上の笑顔を見せる。

「ホントに抱きしめてキスしたい人みっけ!!」

両手を広げて香に向かって走っていくミックのこめかみギリギリを銃弾がかすめた。もちろんコルトパイソン357マグナム。
着弾したのは屋上の扉の横の壁。香の顔の数センチ上。

「り……りょおおおおおお!」

香はハンマーを振り回して僚を追いかけまわす。

……3年のブランクでも腕は落ちていないみたいね。

ミックは苦笑し、二人を置いてコーヒーの香りのするリビングへと向かった。
内心、コーヒーの賞味期限のことを考えながら。

 

おっしまい^^

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