Dearest Love ②

『XYZ-至急連絡願う』

 

翌日、香は僚が起きてくる前にアパートを出て、新宿駅に向かった。
僚の朝食は温めればいいようにしてある。いつもより少しだけ早い時間に伝言板の確認に出かけたふうをよそおう。

 

「そうよ、答えは簡単よ。あたしだって仕事ができるってことを証明すればいいのよ」
香は伝言板に書かれた依頼人の連絡先をメモりながら、ひとり呟いた。

 

依頼人は大場ゆかり26歳。大衆紙の編集の仕事をしている。
以前取材した会社社長の嶋田健吾(30歳)のストーカー被害に悩まされているという。つきまといから始まり、大量のプレゼントとメール。断ると脅迫まがいのことを言われ、最近ではマンションも監視されているらしい。

 

いつものごとくキャッツアイで依頼人とあった。
連絡をいれると、依頼人は仕事を抜けて香に会いにやってきて、今日から警護をしてほしいという。
断るつもりはなかったが、香は少しだけ後悔した。
依頼人は僚好みの色白超絶美人でナイスバディだった。
依頼はボディーガードだが、命の危険もあるのでアパートに寝泊まりしてもらうことにした。
僚には依頼を受けたことだけをメールで知らせておく。
香に悩みの種が増えた。
僚と香が二人になることは暫くなさそうだが、僚と依頼人を二人きりにもしてはいけない。

 

「彼女が依頼人の大場ゆかりさん。しばらく客間で寝泊まりしてもらうことにしたから」
夕方、ナンパから帰ってきた僚に、依頼の内容とゆかりを紹介した。
勝手に依頼を受け、荷物までアパートに持ち込んだのだから驚いて当然だろうと香は思った。
しかし僚は香の思惑とは別に鼻の下をのばして、今にも依頼人にとびかかりそうだ。
「冴羽僚ハタチでえっっす。困ったことがあったらボクになんでも言ってね^^ 手取り足取り腰とり、何っでもお手伝いしまーーっす」
依頼人は引きつった笑顔でドン引きしている。
香は後ろ手にハンマーを召喚する寸前までいったが、一人前と認めてもらえるまでは叩き潰す衝動を抑えることを固く心に誓った。

 

夕食後、食器を洗っている香のもとに僚がきた。
ゆかりはリビングでテレビを見ながら、香が淹れたコーヒーを飲んでいる。
「俺に相談もなく依頼受けたっていうから、てっきり男だと思ったら超美人だし。おまえ、やっぱおかしいよ。どうしたの?」
そういう僚はなんとなく小声だ。
香は前を向いたまま答える。
「べ、別におかしくないわよ。ボディーガードだけで依頼料も破格なんだからいいでしょ? この依頼は僚には関係ないから。全部あたしにまかせてね」
「ふーん」
ま、ストーカーくらいならウチのじゃじゃ馬で充分か。
そうつぶやいた僚の言葉は、流れていく水道の音で香の耳には届かなかった。

 

翌日、ゆかりを職場まで送り、その足でゆかりのマンションに向かった。
案の定、いたるところに盗聴器が仕掛けられていた。
盗聴器と頼まれていた着替えをもってマンションをでる。
マンションを出たところで、香は路地の反対側にいる二人組の男と目があった。堅気の人間ではないことはすぐにわかった。マンションに入るときには気づかなかった。
男たちは香を一瞥しただけで、つまらなそうに煙草に火をつけた。足元にはたくさんの吸い殻が落ちている。
ゆかりが言っていた。おそらくストーカーが雇ったらしいガラの悪い連中が周囲をうろつき始めたので怖くなってXYZと書いた、と。
あいつらかな?
香は、超小型カメラで男たちを撮ると、依頼人を会社に迎えに行く前に夕食の買い物を済ませておこうとスーパーにむかった。

 

 

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